西神田の名店紹介 「一膳」その4 〜波瀾万丈篇〜

イケメンの黒服三人を抱えて大人気だったホストクラブ、じゃなくて喫茶室みづむら。アイデアメニューもいっぱいで順風満帆に見えましたが、ここで大きな波がやってきました。

「チェーン店の安く飲めるコーヒーが出て来たんだよ。」

〜〜〜「レストハウスみづむら」の時代〜〜〜

ーああ…アレとかアレとかアレとか、いろいろありますよね。
「もう喫茶店だけじゃやっていけなくなってさ。
時代、時代に合わせた仕事にしないと置いて行かれるんだよ。
だから、昼は喫茶店だけど夜はお酒も飲める店にしたの。カラオケもおいてさ。
名前も『レストハウスみづむら』に変えたの。」

○当時の紙ナプキンに印刷されたロゴマークと
「今日も一日御苦労様です。」の文字。
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○当時使用していたカレーポットとお皿。
アンティーク?
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ーレストハウス!お休み処ってことですか。
「おつまみ付きセット1,000円ってのにしてさ。あとカラオケは1曲200円。」

ーカラオケはボックスじゃなくてスナックとかで歌うのが主流だったんですよね。
「お客さんがカラオケ歌うときに両替とかするでしょ?で、帰るときはもう酔っぱらってるから残ったおつり忘れてるわけ。他の店じゃそれは貰っちゃうんだけどさ、ウチは違うの、ちゃんと名前書いて封筒に入れて取っとくんだよ。で次来た時に『こないだのカラオケ代残ってますよ』っていうと喜ぶんだね。その分安く飲めるから。

ーあー、そういうの嬉しいですよね。
キープボトルみたいなもんですね。キープカラオケ?
「そういう事だね。ボトルもいっぱい入ってたよ。多い時は100本以上入ってたね。」

ーあ、そういえば今でもカラオケの機械奥にありますよね。
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あれはその時の名残なんですね。
「そうそう。レストハウスみづむらは8年続いたね。」

ーあれっ?喫茶室みづむらは何年やったんでしたっけ?
「喫茶室みづむらは17年だね。だから半分くらいか。」

ーなんでやめちゃったんですか?
「バブル崩壊でさあ。みんなあまりお金使わなくなったんだよ。」

ーああ…やはりここでも時代の流れなんですね。
で、次がいよいよ「一膳」っていうことですよね。
「うん。昼と夜は必ず食べるでしょ?一日一膳は必ず食べるでしょ?
だから『一膳』って名前にしたの」

〜〜〜「一膳」の時代〜〜〜

ー日本人の基本ですよね。
「そう、一日一膳!」

ー『一膳』って何屋さんって聞かれると僕は『和食のお店』って言ってるんですけど。
「何屋って聞かれると蕎麦屋だね。最初は蕎麦と刺身だったんだけど、天ぷらも出すようにしたんだよ。」
「蕎麦屋と天ぷら屋はつぶれた店が無いからドッキングしたわけ。」

新装開店した「一膳」は、それはもう大はやりだったそうで、
平日の夜はほとんど満員の日が続いたそうです。
「みづむら」にせよ「一膳」にせよ形を変えるたびにはやるのですから、
やはり時代を見る目が優れているのでしょう。

○「一膳」になって間もない頃の店長
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左は西神田町会の下川町会長。
お二人とも若いですね〜。

僕は西神田に引っ越して来てからもう何十回とこちらに足を運んでおりますが、町会長ほどのおつきあいの長い人になると、それこそ何百回と来店しているのではないでしょうかね〜。まさに「地元の人に愛された名店」です。

そんな「一膳」ですが、今年でもう15年。
また新しい波が押し寄せてきました。

激安チェーン店の台頭。

百年に一度の不況。

千年に一度の災害。

よくまあこんなに次々と試練が続くもんだと、
全くひとごとでなくそう思うのですが。

「喫茶室みづむら」から「レストハウスみづむら」そして「一膳」と、40年続いた歴史の幕がもうすぐ引かれようとしております。

僕には、それを見届けるくらいしか出来ませんが、
少しでも記録に残そうと思って、今回の記事を書いたのでした。
色々な話を聞いていると、閉めちゃうのがますます残念になってきます。
せめて、いろいろと写真に撮っておこう!

○「これを飾ってるのは、天皇家とウチだけだ」という霊符
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○「事務所」と書いてある扉の奥は、ロッカールームというか倉庫というか
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○お客さんにもらったという巨人軍の写真。巨人ファン?
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○招き猫
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○ウサギの暖簾。今年は卯年。
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○上品な看板
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○おいしいお蕎麦。
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○座敷の入り口には閉店のお知らせ
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あれ?

「その1」にも載せたので気づいた人もいると思いますが
この貼紙なんかおかしいなと思ったら、
移転と閉店」て書いてますよ?

「小さい場所がどっかあったら移ろうかって思ってんだよ。」
「今の場所じゃちょっと広すぎるから、この座敷がないくらいの広さのところがあるといいな。」

えーホントですか!?
全くやめるってわけじゃないんですね!

さすがアイデアマンの一膳さん、
もう次の一手を色々と考えているようですよ〜。

なんかちょっとホッとしました。

一膳さんの次のステージではいったいどんな事が起きるんでしょうか?

今から楽しみですね〜!

最後に、店長水村忠奥さんが
改めて一膳についての思いを書いてくれましたので
それをご紹介致します。

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 一膳にしてから(創作料理の出初めで)かゆい所に手が届く料理を目ざした。
それはどういう事かというと、
何人かが集まると、「何か美味しいものが食べたいね」という会話が今でもよく聞かれる。
何か? 何か?
その答を出すのが私の夢であり、
お客様から有り難うの一言を聞く為に頑張った店でした。

カップルが、何か美味しいものが食べたい時、一膳に行けばなんとかなる、
そんなお客様も何組かいました。
その場で(料理を)考えるので、次に来た時、「この間の美味しいの又作ってくれる!?」と言われてもすぐに思い出せないのが現状でした。

それと、個人企業(チェーン店ではない)なので、常連客には、サービスとか、新作が出来た時に食べてもらい反応を見るメリットも有りました。お客様から教えてもらって伸びるのも個人店だと思います。チェーン店は決まった味、決まった言葉しかない。例えば、「ハンバーガー10個下さい」と言ったら、一人なのに「お召し上がりになりますか、それともお持ち帰りですか?」と訳のわからない事を聞く。一人で10個ここで食えるか!!
そんな店が増えるのがさみしいです。

フラッと寄って、かるく飲んで、美味しいものを少し…
そんな店がもっと出来てほしいです。
店の大きさではないんです。
小さな店でたくさんの常連さんと会話する事によって、人生が楽しくなれば…

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○食酒処 一膳
東京都千代田区西神田2-4-9
03-3264-2733
営業時間:
11:15~14:00
17:00~23:00
※こちらでの営業は、明日の6月24日(金)で終了となります。